G-14WZ0D01SX

Ч7.虫の木

 更新が激しく滞っていたが、ヨモギ属の皆様はすこぶる元気だ。しかし一か月のうちにそれなりに事件も起こったので、経過をまとめていこうと思う。

 ふたつある日光灯のうち片方が壊れた。電源コードと本体を接続する部分がメッコリと取れてしまった。

 商品レビューを見てわかるとおり、脆い。もちろん分かった上で購入ボタンを押したのでメーカーに恨みはない。二枚組で、片方でも動けばいいかなと思っていた。幸いにも当初は両機共に稼働していたのだが、アパートからホテルまでの車での運搬には耐えられなかったようだ。

 片方は無事だったので、数日はライト一個で栽培を続けていた。しかしこのケースは故障原因が明確だ。もともとハンダでくっついていただけの電源ボックスがポロっと取れただけ。つまり理屈上、ハンダ付けしてやれば直る。ホームセンターからハンダゴテを買ってきて、ど素人テクで電極同士を繋いでやるとしっかり点灯した。これでチェルノブイリに暗い思いをさせずに済む。

 しかし、私が滅茶苦茶眩しいという第二の問題が発生した。自室ではにロフトベッドの下に位置していたのでまだアイマスクで耐えられたが、ホテルの玄関部分はベッドから丸見えなのでさすがに辛く、眼や皮膚にも悪い気がする。ということでカーテンをつけることにした。細い突っ張り棒で廊下部分に取り付けると、アイマスクをすれば寝れるレベルの暗さは確保できた。

 他にも机の位置を変えたり棚を2個設置したり、かなりやりたい放題させて頂いた。1ヶ月も居るのだからいいじゃないか。

カーテンの奥に棚がもうひとつ

 そんなこんなでしばらく平和に栽培を続けていたが、実は既にチェルノブイリの異変は始まっていた。大学にいたころから、チェルノブイリの葉にところどころ白い斑点があった。小さかったし、葉の斑みたいなもので自然なものだと思い気にしていなかった。しかし、ホテル暮らし中盤の頃、急に斑点が増加し、葉もしおれて明らかに不健康な様相を呈した。病気だったのだ。

気づいてみたらかなり重症だった。気の毒なことをした。

 これはいかんと慌てて検索すると、害虫によるものである可能性が高そうだ。症状からしてハダニかと思った。ホームセンターに急ぎ、スプレーを購入してきた。オーガニックタイプで、食べる前日にスプレーしても大丈夫という触れ込みだ。これを鬼のように撒き散らしながら数日経過したが、効いていない。斑点は増え続ける。まさか、ハダニというのが誤診だったかと葉っぱを一枚一枚探していくと、こいつを発見した。

ピントが合わん

 なんてこった、アザミウマだ。
葉っぱの中に産卵する曲者で、オーガニックスプレーなど全く効果が無かったろう。本格的な農薬の投入が必要だ。またホームセンターに出向き、オルトラン粒剤を入手して規定量ぶちまけた。根から吸い上げて植物体全体に行き渡り効果を発揮するので、葉の中だろうが効いてくれるだろう。アザミウマの中には農薬に耐性のある連中もいるらしいが、これは賭けるしかない。

 翌朝確認してみると、葉の上を歩いている虫はいなくなっていた。どうやら効果があったらしい。ほっと胸をなでおろしたが、その日外出から帰ってくると、部屋が猛烈に臭い。どうやらオルトランのにおいのようだ。たまらずホームセンターに走り(何回目だ?)、ジップロックを買ってきてぶち込んだ。人間にも効きそうだ。後日、実家に預けていた日本のヨモギにもアザミウマ発生を確認したので同様の対処をした。

日本のヨモギは、伸びすぎてブンブンしなり扱いづらくなっていた。せっかくだし、ヨモギ風呂をやってみることにした。伸びすぎた株を切り取り、葉っぱをむしってミキサーにかけ、煮出して濾す。完成したドス緑色の液体を湯船に入れれば、いい香りのヨモギ風呂の完成だ。漢方薬としてのヨモギの効用は良く知らないが、何となく健康になりそうな気はした。

 ニガヨモギはまっすぐ伸び、私の胸くらいの高さまで成長した。こちらはしなって邪魔になることも無かったので、剪定はしなかった。遠方での用事が済み、三鉢を後部座席に乗せて大学へと帰還した。この帰路でまた、植物ライトのはんだ付けが取れてしまった。持って行っていた荷物の片づけや大学の授業などで忙殺され、はんだを付け直す暇が無かったので、しばらく片方だけで運用していた。

 そのまま一週間ほどが経ち、ふとベッドの下を見ると、奥の故障したライトの下にいたニガヨモギが、ぐいっと茎を曲げて手前の明るいスペースに這い出してきていた。ニガヨモギは英語でwormwood、虫の木という。wormは蛇のことで、イヴをそそのかしエデンの園を追放された蛇が這った跡からニガヨモギが生えたという伝説に由来するらしい。しかし、名は体を表すともいう。光をめがけたこの大きなうねりは正しくワームだと感じた。

光あれ