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6ミリ強のネジ穴 後編

前編 中編

前回までのあらすじ

 削ってしまったネジ穴に一回り大きいネジを入れるため奔走するピザ間質60円。慣れないコーヒーに浮かされて憧れの工具・マキタ26mmハンマドリルを買ってしまうが、根本的な計画ミスが発覚する。果たして今日中に、分解した友人の家具を元通りにすることは出来るのか!?

 うむ。やはりこの程度に要約できてしまう。というか中編の内容が浅過ぎて、要約すべきことが大して増えていない。文庫本の裏表紙に四角く書いてある短いあらすじを業界では「ウラスジ」と呼ぶそうだ。あれの文字数は出版社にもよるが大体150〜200字くらいらしい。煽り文句のようなのを除いたらTwitterくらいの字数だ。

色々な出版社の担当者を集めて、ウラスジ形式で日記や随筆を書いてもらうと面白いものになるんじゃないかなと思う。出来れば裏表紙を模したページ構成で文庫サイズで出版できたらと思うが、余白が多過ぎてダメかしら。スリップ(紐しおり)が付いているから、出してくれるなら新潮文庫がいいな。「ウラスジ日記」じゃ色々とマズいので、「裏表紙文庫」らへんがタイトルとして適当だろうか。

さて、ハンマドリルを買ったホームセンターからの帰路、またスターバックスまで足を伸ばした。友人から、期間限定のチョコバナナドリンクが傑作だから飲んでみろとしつこく勧められていたのを思い出したからだ。凄く気に入ったわけではないが、面白い味だった。甘々のチョコレート液の中に半溶けのバナナを入れると、酸味が目立ってくる。未熟で酸っぱいバナナは美味しくないが、チョコレートの甘味でマスクされた熟したバナナはフルーティな酸味として際立っていた。

友人宅は駐車場が少し離れている。黒コートの不審者がマキタの箱を持って道を歩いたら怪しまれないかと少し思ったが、幸い誰ともすれ違わなかった。扉を閉めて、緑色のケースをゆっくり開くと、威厳たっぷりのハンマドリルが姿を見せる。今日は普通のドリルでも構わない金属の穴あけしかやらないが、いつかこいつで大きな窯を作るのだ。

マキタ製の本体にボッシュ製のアタッチメントをつけ、8mmの金属用ドリルビットを装着。試しに空回ししてみると、なんとも頼もしい動きをしてくれる。ハンマを切って問題の6mm強のネジ穴に押し当て、引き金をそっと引く。ガリガリと大きな音をたてて金属が削れてゆく。数ミリ掘り進んだところで、しっかりねじ込めるか確認するため8ミリのねじを当ててドライバーで回してみた。

ん?おかしいな。完全に空回りする。

この瞬間、自分の愚かさに眩暈がした。ネジ自身がネジ山を切って進む前提の木ねじとは訳が違う。金属ボルトを同径の穴に入れて回したら、何の抵抗もなく回るに決まっている。ああもう馬鹿。

 最後まで掘り進んでいたら切腹モノだったが、運良くまだ被害は1/4程度。ここから軌道修正すれば強度的にそこまで問題は出ないだろう。すぐさまインターネットで検索すると、ねじタップという工具が存在し、それを使えば金属にネジ山を切れるという。時刻はホームセンターの閉店時間にギリギリ間に合うかどうかの瀬戸際だった。車に飛び乗り、道路が空いていることに感謝しながら、妙な高揚感を覚えつつ店を目指した。

 端折った部分があるので記事に全ては書かれていないが、今日は結局、計5回もホームセンターを訪れた。ハンマドリルを買った大きい方に2回、ねじタップを買いに走っている少し営業時間が長い方に3回。はじめからもっと計画的にやっていれば時間もガソリンももっと節約できたものを、なんとも頭の悪い1日だ。

 自動ドアの隙間を斜めになりながら通り抜け、店員さんに8ミリのねじタップが欲しいと告げる。ドリルのアタッチメントは見た目が似たものが多いので、急いでいる時は店員さんに聞いてしまうのがいい。果たしてすぐに目的のものは手渡され、急いで会計を済ませ車に走り戻った。実際、この時点で閉店まで5~10分程度の余裕はあったのだが、焦りを鎮めるより買い物を済ませるほうが早かった。

さて、ドリルをねじタップに付け替え、穴に押し当て回してみると、ギュインと短い音がして吸い込まれるように掘り進み、一瞬で事が済んでしまった。散らばるらせん状の鉄くずが、上手くいったことを示していた。ゆっくりモータを逆回転させてタップを引き抜き、8mm径のねじを恐る恐る回してみると、スムーズに且つ信頼感を持ってねじ込むことが出来た。成功だ。

4年前の過ちと格闘すること10時間、ようやく解決の時を迎えた。新しい穴で固定した部品は、むしろねじが太くなったことで強度が増した気さえする。他の部分の組み立てはあっさり済み、全体を引き起こした時の達成感は得も言われぬものだった。友人がパーツをひとつ紛失していたことは全く私の責任ではないので気にしないこととする。

下級生だった頃、工作が好きで色々なものを作っては壊したり他人に押し付けたりを繰り返していた。出店の看板など必要なものの時もあったが、大部分は作ること自体が目的の様なくだらないものだった。諸事情で怒られが発生し、その後自室の汚部屋化やコロナによる外出の不便もあって、工作はご無沙汰していた。愛用のドリルをひとに貸してしまうくらいには。

しかしこの日一日の行ったり来たりの騒動で、何かを作ろうと思い付きで右往左往するバカな楽しさを思い出した気がする。いつの間にか歳を取ったものだな、と切なくなったりもするが、コーヒーに浮かされてハンマドリルなんかを買っちゃうあたり、バカは治っていないようだ。組み立てた家具を眺め、鉄くずの散らばる床で冷めた牛丼を食いながら、残り少なくなった大学生活の思い出を懐かしんだりした。

2022年5月5日
(できごとの日付は4月17日)

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