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Ч5.チェルノブイリとニガヨモギ

過去の栽培記録もぜひご覧ください。

 4月8日から二週間、チェルノブイリ(和名:オウシュウヨモギ)Artemisia vulgarisとニガヨモギArtemisia absinthiumを栽培してきた。「チェルノブイリ原発事故が新約聖書、ヨハネの黙示録で予言されていた」という都市伝説について検証するためだ。

 聖書に書かれているのはニガヨモギで、チェルノブイリとは別種だから聖書の記述と原発事故は関係が無い、というのが一般に言われる反論だが、私は疑問を持った。ヨハネさんが生まれ育ったイスラエルあたりにはニガヨモギもチェルノブイリも生えていないから、植物学者ではないヨハネさんが近縁である二種を間違える可能性があるのではないか。

 ということでこの仮説の検証に苗からある程度のサイズまで両種を育ててみた感想だが、いくら素人でも、さすがにこの2種を間違えることは無さそうだ。

チェルノブイリ、オウシュウヨモギ
ニガヨモギ 左は日本のヨモギ

一枚目がチェルノブイリで、二枚目がニガヨモギだ。写真が上手くないので光の加減など色々違って申し訳ない。部屋が汚いことに関してはこちらの記事の言い訳を参照頂きたい。

 ぱっと見、ニガヨモギよりチェルノブイリが濃い緑色だ。Google画像検索でも色の違いはよく分かる。「オウシュウヨモギ」で検索をかけると、サムネイル画像の並びは緑から黄緑の印象を与える。対してニガヨモギの検索結果の群れは、銀緑とでも言うような白っぽい雰囲気だ。

ニガヨモギは葉っぱが細かく分かれており、シルエットにはぱさぱさと隙間が多い。一方チェルノブイリは葉っぱが広く、こんもりした印象を与える。

こちらはそれぞれの葉っぱをちぎって並べたものだ。一番左は日本のヨモギ。真ん中がチェルノブイリで、右がニガヨモギである。

裏側はこちら。

 日本のヨモギとチェルノブイリは非常によく似ている。植物体全体のシルエットもかなり近いし、葉っぱもそっくりだ。分岐の仕方が、チェルノブイリの方がてのひらをぱっと開くように拡散する傾向が強く、日本のヨモギの方が鋭角に分かれるようにも見えるが、そもそも葉っぱは個体差がかなりある印象。一枚だけよこされて、見た目だけで日本のヨモギかチェルノブイリかを見分けろと言われたら筆者にはできないかもしれない。

 ただし嗅覚と味覚を使って良いなら、慣れれば区別できそうだ。日本のヨモギは揉むと、ヨモギヨモギした特有の香りがある。口に入れると更に強いヨモギ臭が押し寄せてくる。対するチェルノブイリは日本のヨモギに比べて香りや味にパンチが無い。個人の乾燥だが、バジルを弱体化させたような香味だ。

 ニガヨモギは他の2枚と完全に異質だ。葉っぱの大きさも分岐の仕方も全く異なるし、色や光沢も異彩を放つ。細かく分かれる銀色の葉は、天使の羽のようにも見えて少し神々しい。植物体全体の見た目としても、美しい草だと思う。

 揉んだ時の香りに関しては、チェルノブイリと近い種類だが数倍強力だ。そして味が凄まじい。口に入れて咀嚼し、汁が舌に触れると思わず吐き出すほど苦い。名前に偽りなし。この苦みはずっと後を引き、若干のしびれ感も伴う。黙示録には川の水がニガヨモギのように苦くなって大勢が死んだと書かれているが、さもありなん。数枚で死ぬような毒性はないが、死にそうな気はする味だ。

 ということで、概観、葉っぱ、香味どれをとってもチェルノブイリとニガヨモギは全く異なるものだ。共通点を探す方が難しいくらいで、興味を持って観察していれば混同することはそうそう無いと思う。

※あくまで研究者ではない個人の感想です

 ただし、これはやはり現時点の感想である。チェルノブイリもニガヨモギも1メートル程度まで育つ大きな草であり、見た目は成長につれ変化していくだろう。「チェルノ-ブイリ」という名前が意味する黒っぽい茎もまだ観察できていない。これからも栽培は続けていくので、折を見て記事を追加しようと思う。

 そして、最初から念頭にはあったが今まで記述してこなかったもうひとつの問題がある。そもそも、ヨハネさんにとっての「ニガヨモギ」はArtemisia absinthiumですらないという可能性があるのだ。

 新約聖書はギリシャ語で書かれており、ニガヨモギと訳されているのはἄψινθος、アプシントスという単語だ。アプシントスはニガヨモギのことだが、どうも聖書研究においてはArtemisia judaicaという種を指していたという説が有力だそうだ。日本人にとって馴染みがゼロのため和名は無く、英語名はjudean wormwood。ユダヤニガヨモギとでも呼べばいいだろうか?

 イスラエル近辺の乾燥地帯に生える草らしく葉は肉厚で、こちらも強い苦みがあるらしい。Google画像検索で見た限りではチェルノブイリとは全く似ていないが、ニガヨモギとチェルノブイリの明確な区別が出来るようになったのも実際育ててみてからなので、Artemisia judaicaも栽培して比較してみたかった。

 ところがこのArtemisia judaica、あまりにもマイナーなのか雑草扱いなのか、私の検索能力で見つけられる範囲のシードショップでは取り扱いが無かった。「エデン・ブラザーズ」という聖書聖書した名前の店にすら影も形もない。もう自分でイスラエルまで行って採集するしかないのだろうか。知恵を貸して下さる方、募集。

2022年4月23日