6ミリ強のネジ穴 中編
前編のあらすじ
友人に家具の分解を頼まれ、固着したネジをドリルで破壊したは良いが、ネジ穴が広がってしまい再組み立てが不可能に。もっと広げて太いネジで固定しようと思い立つが、愛用のドリルは遠方に貸出中。慣れないコーヒーを飲んでハイになった私は、もっといいドリルを買ってしまおうと息巻く。
自分で書いた文章の「あらすじ」を書くのは初めてだが、あの冗長な文章がTwitterに投稿できる文字数にまとまってしまった。もしや私は要約の名人なのでは?と一瞬思ったが、いや違うな。私が得意というかよくやるのは、140字で済む内容を2000字に引き伸ばす方だ。水増ししようと意図していたわけではないのだが、実際要約してみると思った以上に水であった。ほとんど水のカルピスは真水より不味いが、私の文章もそうなっていないか少し心配である。
さて、貸しているボッシュ製の電動ドライバーも非常に使い勝手の良い優秀な工具だが、出来ないこともあった。私の夢のひとつに、「クリスマス・キャロル」に出てくるような、ヒトの子供ほどもある巨大な七面鳥を丸焼きにして食うというものがある。冷凍で買える大きい七面鳥でも市販の大型のオーブンにぎりぎり入るか入らないかなので、さらに大きいものを焼くとしたら七面鳥に合うサイズの窯を耐火レンガで作ってしまおうと考えている。規格上、ただ積むだけではそんな大きなものは作れないため、レンガに穴を穿てる工具が必要だ。
また昨年の冬、私はタモリ倶楽部で見てから憧れだったロケットストーブを作った。ロケットストーブについてもいずれ記事を書こうと思うが、煙突効果をフル活用する設計のため熱風が出る位置が私の胸くらいの高さになる。その高さに鍋をかけるにはふつうの焚火用三脚などでは全く足りず、結局コンクリの土台に太い鉄パイプを刺した大袈裟なヤグラを組むことになった。使うたびに組んでは解体するのが酷く手間で、せめて細い鉄棒を使えたらとか色々考えていたが、そのためには石に穴を開ける工具が必要だった。
石に穴を開ける工具といえば、ハンマドリルだ。打撃と回転を同時に加え硬い材料を砕き進んでゆく怪物である。今は鉄板への穴開けだから打撃は不要だが、ドリルだけを作動させることもスイッチ操作で可能だし、普通のドリルよりパワーもある。後に登場するボッシュのおじさん曰く「大型トラックでスーパーに買い物に行く」程度にはオーバースペックらしいが、いつか絶対に買おうと思っていた工具だ。某所に記事を書くアルバイトで臨時収入もあったので、この騒動にかこつけて大購入してしまおうと決意した。私がカフェモカでラリっていることを思い出して頂きたい。
ハンマドリルを買うと決めたら、商品名はもう決まっている。マキタ26mmハンマドリルだ。ニコニコ動画で私が敬愛してやまない作家の1人に高橋邦子(ZAKO2012)さんがいる。RPGツクールを使ってRPGの皮を被った不条理な風刺アニメを作られている方で、「えろえろ監禁病棟」や「ジュラセックス・パーク」など内容とほとんど関係のない視聴者を釣るようなタイトルが特徴だ。かくいう私も中学生の時「レズ・ナイト」に一本釣りされたクチで、本ブログのタイトル候補にカビキングやリリウム所長も挙げていた。
そんな邦子さんの代表作が「エッチな夏休み」である。頭のいかれた殺人鬼が3人も登場する邦子節全開の一作で、また本作を特徴づけるのが、殺人鬼たちがみなマキタ製の工具を凶器に使用することだ。その3人の中でも特に異彩を放つ遼君の得物が、マキタ100mmディスク・グラインダー、マキタ生垣バリカン、そしてマキタ26mmハンマドリルである。ディスクグラインダーは既に刃を何度も交換するほど愛用しており、次に買うのはハンマドリルと決めていた。バリカンは庭の広い家に住んだら考えよう。
赤んぼ程もあるハンマドリルを抱えて「ぶっぽるぎゃるぴるぎゃっぽっぱぁぁぁぁぁーっ!」と奇声を発する自分を想像し、悦に入りつつホームセンターの売り場に向かったが、懸念事項もあった。ハンマドリルで金属などに穴あけを行うことは可能だが、ドリルビットの規格が違うかもしれず、素人判断で適当に購入すると手持ちの8mmドリルが装着できない可能性がある。
そして、このホームセンターにはボッシュの大きなシマがあることを忘れていた。いかにも工具に詳しそうな店員のおじ様にドリルの規格について尋ねたのだが、彼の胸元に「BOSCH」のワッペンがついているのを見落としていた。ボッシュ社から派遣の販売員さんだったのだ。もちろん工具の知識は凄まじいもので、ハンマドリル以外にも魅力的な商品を紹介されつつ的確なアドバイスをくれ、アタッチメントを購入すれば規格違いのドリルを付けられるとも教えて頂いた。
なんだかんだ30分近くも話し込んでしまった。どうやら所属にこだわらず電動工具全般のマニアのようで、私が個人的な思い入れでマキタ製が欲しいことも理解してくれた。実際性能にそこまで大きな違いがないとも仰っていたが、「ハンマドリルを発明したのはボッシュ」という台詞は効いた。危うくじゃあボッシュで…と傾きそうになったが、後ろ髪を引かれつつマキタ製を選択した。
ボッシュのおじさんがあまりに親切だったので、未だに申し訳なさを引き摺っている。ボッシュ製の機械で欲しいものが幾つもできていずれ買うかもしれないし、金属ドリルを装着するためのアタッチメントはボッシュ製品を購入したので勘弁して頂きたい。こうして憧れのマキタ26mmハンマドリルを手に入れたわけだが、作業を再開するとまた致命的な問題が発覚するのであった。
前後編で完結するつもりが、また透き通るようなカルピスを2300字も製造してしまった。高橋邦子の話が長かったかもしれないが、書いてしまったものは仕方がない。本文は中編として、次回を最終回としようと思う。まだ着いてきてくださっている方は、最後のもう一悶着をお楽しみに。
2022年4月22日
(できごとの日付は4月17日)
サムネイル画像 イラストエイト様より
後編につづく
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