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アパムと少女

 食料品の買出しにスーパーマーケットを歩いていると、子供の泣き声が聞こえてきた。何の気なしにそちらを見てみると、外国人の母子であった。母親はスカーフで体を覆っている。イスラム教徒らしい。顔立ちはアラビア系というよりは東南アジア系らしく見えたが、どちらへの渡航歴もないので確証はない。

 今時外国人の親子を見るくらい珍しくないが、私の興味を引いたのは1~2歳くらいであろう女の子の泣き声だ。しきりに、「アモー」と繰り返している。母親はカートに乗せた娘をなでながら、「アモアモアモ・・・」とあやした。不思議な響きだった。

 果たしてこの「アモー」はどういう意味なのか。そもそも意味がある言葉なのかすら定かではないが、子供は少なくとも一語文くらいなら話せてもよさそうな年ごろに見えた。なにせ国籍が分からないので、何らかの意味があったとして調べるには骨が折れる。東南アジア説が正しかったとしても、インドネシア語やマレー語は文字が分からない。

 このあたりから空想が始まる。彼女らは人種的にはアジア人に見えるが、はっきり母国語を話すところは聞いていないから、実際はヨーロッパやアメリカ出身であるという説を否定する根拠はない。

 アモーと聞いて思いつくのは、アモーレ、愛だ。ラテン語のamorを語源とし、フランス語やスペイン語、イタリア語などラテン系言語で似たような音の単語がLoveを表す。もしビートルズが悲痛に愛を叫ぶこの少女を知ったら、ポール以外の三人も裸足になってアビィロードを走り出しただろう。

 しかし真逆の解釈もできる。女の子の泣き声は時々、「あんもー」という風にも聞こえた。もし彼女が英語話者だったとしたら、ammoつまりammunition。「弾薬」と連呼していることになる。誰と戦っているのかは知らないが、どうやら弾切れらしい。きっと弾を取りに行かせた兵士の足がすくんで少女のもとまで来られないのだろう。戦争とは実に嫌なものだ。どうか彼女が叫んでいるのは愛の方であってほしい。

 いや、「方」じゃなく、たぶん東南アジアの全然違う意味の言葉なんだろうけどさ。本当は彼女が何と言っていたのか、お心当たりがある方は是非教えてください。

2022年4月21日