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ピザ間質60円

 1998年に生まれ、あまり外で遊ばず部活にも入らない子だった私にとって、小学校の放課後はフラッシュとMAD動画の時間だった。三年生くらいの時に親に与えられたパソコンがとにかく好きで、電源を入れていない時でさえカバーに彫られているVAIOのロゴを鉛筆で塗りつぶしたりして遊んでいた。

 一番の友人だったDくんからおもしろフラッシュの存在を教えられ、のび太のようなキャラクターが「ワサビ」と叫ぶだけの作品で数日笑い続け、完全に虜になった。学校から帰ったら「おもしろフラッシュ」で検索し、リンクを飛び回る日々の始まりである。

 絵も粗くカクカクだったFLASHは技術の進歩か作家の努力か、「アニメ」と言えるほどに繊細な動きを見せる作品も現れ始めた。「やわらか戦車」の歌を暗記して、女の子達に大袈裟な身振りをつけて歌ってみせていた時が、今思えば人生で一番女子ウケが良かった瞬間かもしれない。

 前後して、YouTube やニコニコ動画が登場。D君と私の間ではデスノートMADが一番ホットなコンテンツで、やはり歌詞(と言えるか分からないが)を暗記してきて2人で歌っていた。こちらは2人だけの趣味だった。どうもこういう「MAD動画暗唱系キッズ」は日本全国で散発していたらしく、「どこのクラスにもいた痛いやつ」という文脈で語られていたりするのを見ると10年越しに恥ずかしい。なお、デスノートのアニメ本編を全て観たのは浪人生になった18歳になってからであった。

 そんな私がなんだかんだで医学生をやっている。時代は変わり、Flashのサービスは終了、MAD動画にも「インターネット老人会」のタグがつくようになった。私の思い出であるフラッシュ転載サイトは作家達から嫌われていたらしいと知り、大人になることの切なさを感じたりもするが、当時大笑いした記憶は変わることなく残っている。むしろ成長したことで、思い出を元にとりとめのない考察を巡らして楽しむこともできるようにもなった。

「ピザ実質3000円」という印象的なフレーズがある。空耳系フラッシュの傑作、「もすかう」のサビで、「とにかくあっかんべ」に続く一節だ。元のドイツ語では「テーブルの上で踊ろう、テーブルが壊れるまで」という文章の後半「Bis der Tisch zusammenbricht」がピザ実質3000円に聞こえている。「つさんぜんえん」が一単語というのが面白い。

 実質とは、辞書的には「物事の中身・本質」という意味らしい(スーパー大辞林)。日常的には何と無く、「事実上」と同じような使い方をする。恐らくムスカがチラシを見せてくる天空のピザを買うと、財布から出すお金は3600円とかなのだろう。しかし、600円分キャッシュバックがあるとかクーポンがもらえるとかで実質3000円になる。日本基準では、豪華さにもよるが妥当な数字である。

 しかし医学生的には、もうひとつの解釈、というか屁理屈をこねることができる。脳外科の分野では、脳を覆っている髄膜などを除いた脳みそそのもののことを「脳実質」という。病理学的には、肝臓などのように中までぎっしり詰まっている臓器を「実質臓器」という。対義語は胃や腸などスカスカな「管腔臓器」だ。また、呼吸器の分野では肺のうち空気に触れる部分を肺実質、奥で構造を支えたり血管を通したりしている部分を肺間質と呼ぶ。

 ではピザ実質とは何か。脳外科的なアプローチでは、届けられたピザの箱などを除いた食べる部分ということになるだろう。病理学的には、ピザ実質というより実質ピザの方がそれらしい。基本的にピザは薄いもので、あまり「実質」感はない。しかし例外として、皿から立ち上がるホールケーキのような図体にチーズのどっちゃり入ったシカゴピザというものがある。食べたことはないが、きっとあれが実質ピザだろう。対義語となる管腔ピザは、コンビニで売っているピザロールが一番近いと思う。中身は詰まっているが、温めて長径方向に潰すと管状になる。残念ながら天空のピザのチラシにはPowerPointの円グラフのようなものしか描かれておらず、シカゴピザであるか否かは確認できない。

 呼吸器的なアプローチだが、肺実質でいう実質は「臓器の機能を担っている部分」で、間質は「それ以外」というような意味合いである。脳外科と同じようだが、脳実質には神経細胞だけでなくグリア(構造を支える細胞)も含まれるため厳密には異なる。また脳外科で脳間質とはあまり言わない。ピザの機能が食われることであるのは自明であるから、ピザ実質はやはりピザのことだ。ではピザ間質とは何か。

 肺間質は肺の構造を支え、呼吸という機能を補助している。それをピザに当てはめると、ピザの箱や手を拭くナプキン、スパイス類を入れた小袋の外装部分などがピザ間質として挙げられるだろう。問題はデリバリーしてくれる人やバイクに積んである保温バッグまで含むかだが、肺に血流を送る肺動脈まで肺間質とは言わないし、ピザが届いたと宣言できるのも箱を手渡された段階からだろうから、これらはピザ屋の一部と解釈するべきと考える。

 ピザ実質が3000円なら、ピザ間質はいくらだろう。ネットでピザの箱代を調べたら、大体50円から70円程度だった。大量仕入れではもっと安いかもしれない。他の間質成分と合わせて、大体60円くらいなのではないか。ピザ間質60円。あっはっはっはっは。別に駄洒落になっていたりもしないが、なんとなく響きの良い文字列だ。

 つらつら書き連ねてしまったが、この空想が本ブログの名前の由来である。削れば400字以下に出来そうなくらい内容が無いが、そもそもブログを開設しようと決めたのは、私のこういう面倒くさい頭の中をどこかに吐き出そうと思ったからだ。簡潔にしたら意味が半減してしまう。

 ピザは好きだが大好物というほどでもなく、間質にも60円という数字にも特に思い入れはない。これから投稿するつもりのヨモギの栽培模様や趣味である8ミリ撮影、映画鑑賞、恐竜、宇宙など、他にもっと素敵なタイトル候補は色々あった。しかし私の重大な欠点として、飽きっぽさがある。同じ趣味が数年継続した例は珍しく、一時期熱狂的にはまっていても、冷めてきたらすぐ次に移ってしまう。そういう趣味をタイトルにして、飽きた後にもその名前に付きまとわれると、必ず虚しさに襲われるだろう。

 一度飽きた趣味が再燃することも頻繁にある。しかし、目覚まし時計に好きな音楽を設定してはいけないと言われるように、飽きた趣味の名前に追いかけられ続けるといずれ、かつて好きだったものに辟易してしまうのではないか。そういう怖さがある。

 だからこのブログは、昨日思いついて今日まとめた、たった2日の雑念の名をつけてしまおう。もし私が昨日、ニコニコ動画の関連動画に見つけたのが「もすかう」ではなく「マイヤヒ」だったら、簒奪ビーフみたいなタイトルをつけていたかもしれない。このくらいのとりとめなさが私にはちょうどいいと思う。

 ここまで読んでくださった方は、相当な聞き上手とお見受けします。今後もこのような日頃思い浮かんだ雑多なものや見聞きしたものなどを、簡潔にする努力はあまりせずに垂れ流していくつもりです。もしご興味を惹かれる記事がありましたらば、是非またいらしてください。

2022年4月7日木曜日